#1 2018 WINTER奈良・金剛山
WINTER
奈良・金剛山
writing by 山田哲也
photograph by 三田周
冬といえば雪! そんな安直な考えからこの冬のスタディは始まった。ただ雪景色の写真を撮りたかった。大阪では雪が積もることが滅多になく、生まれ育った地域でも、今までで数回しか積もったことがない。それもあってか、私は幼少の頃から雪に憧れがあり、見ると何故だか心がおどってしまう。
ということで雪が積もりそうな山に登るしかない 。近場で雪が積もりそうな奈良県の金剛山へ行くことにした。
当日は早朝に集合して車で千早駅へ。付近の駐車場に車を停め駅へ歩みを進める。あたりを見回すと雪がはらはらと降ってはいたが積もってはおらず、山頂付近も積もっていないのではないかと、不安な気持ちになった
駅に到着し、ロープウェイの切符を購入。乗り場から山頂へと続くロープを見ていると、さらに不安な気持ちが強くなる。そう、私は高所恐怖症なのだ。発車の時刻になったので、意を決し、搭乗する。後ろを見るのが怖い。前の方に行き、前方の景色のみを見るようにしていた。しかし、登るにつれあたりは段々と雪景色に変わっていった。その光景にテンションが上がり、普段自撮りをするような質ではない私が、男三人でiPhoneのインカメラで自撮りをするほどだった。
金剛山駅付近は、不思議と寒さはあまり感じず、どちらかといえば大阪市内のほうが寒く感じた。強い風が吹いていなかったからなのか、それとも久しぶりに見た雪景色に気分が高揚していたからなのか。地面には雪が積もっており、たくさんの靴跡が残っていた。私もそこにしっかりと靴跡をつけ、よし、登るぞ、と靴ひもをきつく締め直し山頂へ向かうために歩き出す。
少し歩いてると、恒例の金子トラブルで足止めを食らう。彼はなぜか底が平らな革靴で来ており、滑る滑るといってへっぴり腰になりながら登っていた。見かねた三田氏が持参していたアイゼンを取り出し、彼の靴に装着した。その後調子が出てきた金子は土を拾い上げ、嬉しそうに何か言っていた。
道中、坂道に灯籠がいくつも並んでいる箇所があり、そこで一枚撮ろうと坂道の中腹へ。雪で足が滑りそうになるのを必死に堪えながらカメラに向かって微笑んだ。そこから少し歩くと広場が見えてきた。そこには誰かが作った小さなかまくらや、手のひらサイズの雪だるまがあり、きっと子供たちが雪遊びをしていったんだろうと思い、なんだかほっこりした。広場の中心には不動明王像が立っていた。ワンカップがお供えされており、仏様ってお酒飲んでいいのかなとふと思った。像の後ろに見える階段の先に、転法輪寺(てんぽうりんじ)の本堂があったのでお参りしていくことに。
階段の脇や本堂の近くにはいくつもの石柱があった。なんとなく近づいて見てみると、石柱の頭には幾重にも雪の結晶が重なっており、雪化粧した山のようでとても美しかった。参拝した後はおみくじ売り場へ行き、皆でくじを引いた。なにが出たかは覚えていないが、大吉だった気がする。玉田は雪山は危ないと言って道中安全のお守りも購入していた。横には食堂があり、ちょうど腹が減っていたので何か食べに行くことにした。
体が冷えていた私達にとっては、うどんやそば、おでんなど、どれも魅力的であったが、皆迷わずカップラーメンを購入することに。カップラーメンのお供にビールを飲みたかったが、ドライバーなので我慢。売店のおじいさんがお湯を入れてくれるのだが、包装を剥がさず、蓋に箸をぶっ刺して、その穴からお湯を注いでくれた。なんともワイルドであった。3分間ぼーっとして出来上がった麺をすすった。山で食べるカップラーメンはなぜこんなにも美味いのだろうか。この時の写真がとてもよく、私と玉田はこの写真をアーティスト写真にしようといったが、金子に却下された。
腹が満たされ、体も温まった後は山頂の広場へ。坂を上ると、段々と視界を遮る木々がなくなっていき、開けた景色が見えてきた。山頂広場には老若男女たくさんの人で賑やかであった。皆にこやかな顔をしていたように見えた。連れてきてもらっている犬も楽しそうな表情をしていたと思う。山頂からの眺めは、空が雲に覆われており少し先の山が見える程度であったが、その景色は幻想的でずっと見ていたいと思えるものであった。
しばらく景色を堪能した後は当てもなく山道を歩くことに。しばらく歩いていると、背の高い木々がたくさんある場所にでた。改めてこの時の写真を見返すと、私達の小ささが対照的で、その時思っていたより木が大きかったんだなと感じた。
またしばらく歩いていると葛木神社(かつらぎじんじゃ)が見えてきたので、こちらもお参りしてくことに。一息ついているときに、雪玉を作ってみた。当たり前だが素手だったので冷たかった。その冷たさが、子供の頃、家の庭に積もった雪で雪だるまを作ったことを思い出させた。
あらかた周りきったのでそろそろ撤収しようと、金剛山駅に向かって山道を下ることに。途中、傾斜のキツい下り坂を降りているとき、先頭を歩いていた玉田が滑落した。尻もちをついて慌てていたが、途中から腕を組みあぐらをかいて滑っていったので、この一瞬で彼はいったい何を悟ったんだと思った。途中で買ったお守りのことを思い出すとなんだか面白くて、彼の心配をしながらも、堪えきれず大笑いしてしまった。
さて、その後は誰も悟る(滑る)ことなく無事に駅まで辿りつき帰宅することに。まだ時間があったので、他にも冬らしいことをしようと誰かが言い出し、旬の食材を用いて鍋を作ることになった。
鍋だけだと少し寂しいので、鮭のホイル焼きや炊き込みご飯も作ることに。スーパーで食材を見ていると、とても美味しそうな鰤があったので、刺身用とぶりしゃぶ用に奮発して購入した。ここまできたらしっかり出汁もとってやろうと、あごだしと美味そうな昆布も購入。他にも必要な食材と、念願のビールを購入して玉田宅へ。鍋には、鱈、白菜、春菊、葱などの旬な食材を投入。鮭のホイル焼きには玉ねぎとしめじを。沢山作り過ぎた感じもしたが、皆腹が減っていたのでペロリと平らげた。食事を終え、他愛もない話をしながらだらだらと過ごし、お開きに。
この食事会が、来シーズンのスタディを決めることになる。