#3 2020 SUMMER滋賀・ことうヘムズロイド村
SUMMER
滋賀・ことうヘムズロイド村
writing by 山田哲也
photograph by 大内太郎 + the sankhwa
前回までのスタディは春から始まり冬で終わっていたのだが、前述にもある通り、このスタディをどのように続けていくか悩んでいたり、さらにはコロナ禍になってしまい、色々議論する必要があったのでスタートが遅れてしまった。なので今回は夏から始まる。
色々話し合った結果、スタディ#3は演奏をテーマとすることになった。音楽家らしくて良いじゃないかと思っている。音楽に季節が加わる事で、どのように映るのか始まる前から楽しみであった。季節ごとに演奏する曲を変えたが、今思えば、毎回同じ曲を演奏するのも実験的で面白かったかもしれないなと思っている。
夏の撮影は滋賀県にあるBASE FOR RESTというカフェへ行くことになった。BASE FOR RESTは、ことうヘムスロイド村と呼ばれる村にある。数名の作家さんがいる村で、名前の由来は東近江市誕生前の旧湖東町の姉妹都市、スウェーデン・レトビック市で手工芸が盛んなことから、スウェーデン語で「手工芸」という意味の「ヘムスロイド」と名付けられたそうだ。撮影許可のご返答をいただくまで、うまく話が進むか不安であった。ニュースでは、ライブハウスでコロナが広まったことが報道されており、世間からはそこに出入りするミュージシャンに対して少し厳しい意見があるように思っていた。しかし、オーナーご夫婦は快よく施設の利用を許可してくださり、ほっと一安心した。
今回からは、the sankhwaメンバーに加え、いつもトランペットを吹いてくださっている岩本 敦氏、 映像担当の大内 太郎氏、録音担当の平川 鼓湖氏の8名で撮影することに。いつもは車1台で移動していたのだが、今回からは2台に。この人数ならロケバスで移動してみたいと思った。
当日は山田カーと大内カーに分かれて現地集合することに。道中、私が運転する車内では甲子園のシーズンということもあって、大の野球ファンである金子と佐藤が甲子園トークに花を咲かせていた。毎年この会話を聞いているので、また始まったかと思い、そっと車のBGMのボリュームを上げた。高速道路のインターチェンジを降りて信号待ちの時に、ボーッと前を見ていると、遠くの山が見えて、あ、ここは絶対好きな場所だと思った。
ヘムスロイド村の駐車場に到着。そこから機材の搬入を行うことに。撮影日は8月上旬、溶ける様な暑さの中で機材を運ぶのはいうまでもなくかなりキツい肉体労働だ。台車を持ってきたのは正解だった。車輪を発明した人に感謝の言葉を贈りたい。台車をしばらく転がすと、撮影地の BASE FOR RESTが見えてきた。カフェは二階建ての建物の一階にあった。うちっぱなしのコンクリートで建てられた建物は扉がなく、外と繋がっており開放的な雰囲気だ。周りは木々に囲まれており、「5.1チャンネル蝉の鳴き声サラウンド」であった。
搬入後は一息つこうということに。当日はカフェ営業をしていたので、皆冷たい飲み物やかき氷をいただいた。私が頼んだかき氷には、チョコレートソースがかかったバニラアイス、ミントの葉が添えられていた。一口食べてみると、口いっぱいに濃厚なバニラアイスの味が広がり、後からかき氷の清涼感がやってくる。鼻から抜けるミントの香りもにくい。おしゃれだ。もうセブンティーンアイスのチョコミントでは満足できないであろう。
休憩後は撮影準備へ。一曲目は『In a Coma』に収録されている『Astronom』 。カフェ前の広場で撮影することにした。それぞれ立ち位置を決め、準備を進めていく。その中で様々な問題に直面した。まず楽器のセッティング。ドラムやトイピアノは地面の上に置くので、デコボコしたアスファルトの上では、音を鳴らすたびにグラグラしてしまい、演奏するのは想像していたよりも難しかったようだ。次は音量のバランスについて。普段はそれぞれの楽器の音量感を合わせるために、様々な機器を利用している。例えば、スタジオなどでは音が小さいボーカルはマイクで拾い、音を大きくして聴こえるようにしている。ただ今回はそのような機材を使用しないので、楽器の音量差をコントロールするのが非常に難しかった。特にドラムは音が大きく、静かに叩こうが、その他の楽器はわずかに聴こえる程度であった。我々ミュージシャンにとっては、それぞれの音が会話のようなもので、お互いの音が聴こえていたほうがコミュニケーションが取れる。だが今回はそういうわけにもいかないので、玉田のドラムと、メンバーとのアイコンタクトを頼りにした。
あともう一つは、暑さだ。皆暑さに耐えきれず、カフェで販売していたジンジャーエールを数えきれないほど飲んだり、スーッとするボディーシートを常に使用していた。準備にかなり時間がかかってしまったので、撮影本番になるころには皆の顔から疲労感が見えた。なんとか集中力を絞りだし本番を撮り終えた。
2曲は今回のアルバム『seasons』に収録されている『Shadows』。場所を変え、雑草が生い茂る地面へ楽器を配置。こちらは凸凹のアスファルトとは違い、土の地面は楽器をしっかり捉えてくれるので安定したプレイができそうだなと思った。ドラムレスで静かな曲であった為、『Astronom』ほど音量バランスのチェックに時間はかからなった。この曲では佐藤と岩本氏がビブラフォンをチェロの弓で演奏しており、なんとも幻想的な音を響かせてくれている。大内氏がこの曲は夏の強い日差しがおさまった頃に撮りたいとのことだったので、それまで待機することに。1曲目の疲労感が残っており、またジンジャーエールを飲んで日陰でぐったりとしていた。
夕暮れ時になり本番撮影へ。曲は数分しかないが、日が沈むまでの時間は長くないので、急ピッチで行うことに。自然は待ってくれない。これもまた、外で撮影する難しさだと思った。まだ蝉の鳴き声が止まない中、ビブラフォンの音が鳴り響く。皆、失敗できない気持ちがあったのか、一発目でOKテイクが出た。まだ(日が沈むまでトル)時間がありそうだったので、もう何度かテイクを重ねたが、良いテイクは撮れなかった。ミュージシャンあるあるかもしれないが、レコーディングでも撮影でも最初のテイクが良いものであることが多い。
外が真っ暗になる前に機材を撤収することに。満身創痍の状態で体を動かした。片付けをしていると、オーナーさんが鮎の唐揚げをおすそ分けしてくださった。皆でかぶりついた。近くの川で釣ってきたという新鮮な鮎はとても美味しかった。僕らが食に夢中になっていると、オーナーさんが「川帰りに森で音楽が聴けて最高!またいつでも帰って来てください」と言ってくれたのがとても嬉しかった。このような状況の中、ご協力いただき感謝しかない。またこの場所で演奏をしたい。そう思い、帰路についた。