#1 2018 AUTUMN京都・宝ヶ池公園
AUTUMN
京都・宝ヶ池公園
writing by 金子健太
photograph by 三田周
秋編は紅葉をバックにアーティスト写真を撮影しようと京都市左京区にある宝ヶ池公園へ。僕が何度となく一人で散歩に通った思い出の場所でもある。自宅から公園までの移動時間とその後の静かな環境が、音楽を聴いたり歌詞を書いたり考え事をしたり酔っ払ったりするには丁度良い時間だった。
宝ヶ池公園は比叡山を借景しており、池の周りに遊歩道がある。四季を通して花の名所となるように設計されている自然豊かで素敵な公園だが、なぜかいつも人が少なく何時間いても飽きない公園だ。紅葉の時期に来ておいてなんだが、僕のオススメは初夏の宝ヶ池公園。ベンチに座って景色を見ているだけで瓶ビールが進み、考え事も捗る。池に浮かんでいるスワンボートには乗ったことがないが、実際にその池に住んでいる本物のスワンをバードホイッスルという小さな紙状の鳥寄せ笛で怒らせたことがある。
この公園は元々、農業用の溜池として湧水があった深田の側に堤を作って堰き止めた人工池だった。その後その池を中心に遊歩道を這わす拡張工事が行われ現在の形となった。池の名前の由来は、水不足に苦しんでいた松ヶ崎にとって溜池は宝のように思われたから、池の形が分銅形でお金に例えられたから、宝暦年間にできたものだから、などの諸説があるそうだ。
撮影の朝は早く、早朝に山田の運転で現地に到着した。京都の北の方は大阪よりも幾分か空気が澄んでいて本当に気持ちが良いなと改めて思った。しかし11月終わりにもかかわらず、肝心の紅葉はまだピークではなく期待した程色づいていなかった。ここでも自然の洗礼を受けることとなった。予想通り人も少なく、雰囲気の良い写真が撮れそうだっただけに残念だ。
ひとまず池の周りの遊歩道を歩きながら撮影していくことに。玉田が遊歩道に点在する顔ハメ看板を見つける度にキメ顔していたことを思い出す。無邪気だ。環境は素晴らしいが、思っていたような紅葉が撮影出来ないため早々に宝ヶ池公園から近い鞍馬山にある鞍馬寺へ行くことに。
鞍馬寺の由来には、鑑禎(がんてい)が建立した説と、藤原伊勢人(ふじわらのいせんど)が建立した説がある。鑑禎は夢の中で、霊山の存在を告げられ、尋ねた際に宝の鞍を乗せた白馬の姿を見る。その山に入った鑑禎は女形の鬼に襲われ殺されそうになるが、枯れ木が倒れて鬼はつぶされてしまった。翌朝になると、そこには毘沙門天の像があったので鑑禎はこれを祀る寺を建てたという説と、藤原伊勢人が信仰する観音菩薩を祀る寺を建てたいと考えており、ある夜見た夢のお告げに従い、白馬の後を追って鞍馬山に着くと、そこには毘沙門天を祀る小堂(鑑禎が建てたとされる)があった。「自分は観音を信仰しているのに、ここに祀られているのは毘沙門天ではないか」と伊勢人は怪しんだ。ところが、その晩夢に1人の童子が現われ、「観音も毘沙門天も名前が違うだけで、実はもともと1つのものなのだ」と告げ伊勢人は千手観音の像を創り毘沙門天とともに安置し鞍馬寺を創建した。という説がある。どちらも夢にも鬼や白馬が出てきて面白い。脱線し過ぎた。
ここなら撮れそうだと期待したが紅葉どころか雪がチラついてきた。これでは冬の印象になってしまうので撮影断念。しかしせっかく来たのだからと、みんなでしばらく散策してみることに。寺はこの年にあった台風の影響で木や建物の一部が倒壊していたことが印象に残っている。寺や神社に来ると玉田が雑学を聞かせてくれて勉強になる。僕は何故か丑の刻参りのことを考えたりしていた。せっかくなので鞍馬天狗の像の下や参道で撮影した。
さらなる紅葉を求め鞍馬寺に来たのだが、再び自然に裏切られ未だ撮れ高に不安が残る。車中で作戦会議をしていると、カメラマンの三田氏が大阪府交野市のほしだ園を提案してくれた。初めて知ったが中々良さそうな公園だったので向かうことに。予定よりも随分長丁場になっているが、色々な場所に行けて楽しい。
ほしだ園の目玉は地上50m、全長250mの全国的にも最大規模の吊り橋「星のブランコ」で、360度景色が見渡せる。そして紅葉スポットでもある。木々は丁度色づいていたのだが、家族連れやカップルで賑わっており撮影できる雰囲気ではなさそうだった。しかしここまで来たのでみんなで渡ってみることに(今日は徹してそんな感じだ)。
ただ気がかりなのは山田の高所恐怖症だ。人並みに高いところが怖い程度の僕はまだなんとか景色を楽しむ余裕があったが、苦手な人にとってこの吊り橋を渡り切るのは途方もなく感じるだろう。大丈夫かなと先に対岸に着いたみんなで心配していたが、山田はとてもゆっくりと時間をかけて制覇していた。さすが凄い根性だなと思った。the sankhwaメンバーでフィールドワークを繰り返しながら、いつか高い所を克服できたら良いなと思う。
その後、舗装された山道を歩きながら人のいない場所を選び撮影は進んだ。良い感じに色づいた木々や落ち葉や何かの実を手に取って観察することも秋の楽しみだ。
最後に交野市と枚方市を一望できる高台で見た秋の夕空の赤と青が綺麗だった。遥か向こうの方に僕が昔過ごした地元の町とそのシンボルが微かに見えた。