#3 2020 SPRING関西のどこか
SPRING
関西のどこか
writing by 金子健太
photograph by 大内太郎 + the sankhwa
スタディ#3春編は、ラストを飾るにふさわしくバンドセットでの演奏で締めることとなった。撮影に協力してくださったのは関西某所の蔵跡を改装して建てられたギャラリースペース。事情があり場所は明かせないのが残念だが、ここも本当に素敵な所だった。
再度トランペットに岩本氏を迎え、バンドは六人編成となり、撮影に大内氏と音響に平川氏という、スタディ#3のフルメンバーが再集結するということで、感慨深い気持ちで当日を迎えた。機材が多いため、山田組と佐藤組と岩本組に分かれて移動することに。僕と玉田とyumiは佐藤の車に乗車した。 普段、佐藤がよく口にする佐藤バスというよく分からない乗り物の事を思い出した。道中はいつものように他愛の無い会話で盛り上がった。

今回は『In a Coma』から『Kin』、『seasons』から春をイメージして作った『Palm』を撮影する事にした。どちらも力強い曲なので一層気合いが入る。メンバー各々無事到着し、オーナーさんに挨拶してそのまま施設の案内をしてもらった。蔵の扉を開けると高い天井と土壁に囲まれた空間に、ピアノが一台置かれており、それだけで画になり胸が躍った。息つく間もなく楽器の準備と音響設備を一から組み上げる。作業の合間にもアルコール消毒を忘れてはいけない。春とはいえ山間の蔵の中はひんやりとしていて、機材運搬や準備で体を動かすのにちょうど良い環境だった。僕は玉田から指示を仰ぎながら、機材を壊さないよう気を付け手伝った。何とか午前中に準備を済ませ、昼食をとる。屋外で食事が出来る事に春の訪れを感じ、ついついお喋りに花を咲かせてしまう。

談笑と軽い食事でエネルギーを補給し蔵に戻ると、みんな代わる代わるパートチェンジし、ドラムを叩いたりピアノを弾いたりして過ごしていた。蔵独特の音の響きを楽しんでいるようにも見え、僕はその様子をおさめるべく動画撮影に勤しんでいた。普段のライブ前とは違うリラックスした雰囲気はスタディ#3ならではといった感じだ。玉田だけは音響のディレクションも担っていたためそれどころじゃなさそうで、申し訳ない気持ちにもなった。


午後、タイムスケジュールどおり撮影に入る。今回はメンバー間の音の確認に、イヤホンモニターを導入することとなった為、慣れない環境に和やかだった空気も少し引き締まる。皆それぞれ環境を整えて『Palm』の撮影が始まった。やはりイヤホンで両耳が塞がれていると、普段と聴こえ方が違い不安だ。大内氏のカメラワークやメンバー各々の音のバランスを微調整しながら数テイク撮影した。途中、平川氏からボーカルマイクの位置が顔に被っているとの指摘が入る。こういった細やかな調整をしてくれると凄く助かる。皆で作り上げていけることが心強く、そして楽しい。そのまま数テイク撮影し『Palm』の撮影は終了となった。その後、小休憩を挟み『Kin』の撮影に入る。曲が変わると音のバランスも変わるため、またあーでもないこーでもないと微調整を繰り返す。慣れない環境は続くが、例えベストな環境が作れなかったとしても、僕はこれまでの撮影で経験したことのおかげで、ポジティブに乗り切ることができるようになっており、撮影の終盤はみんなを信じて普段のライブと同じように演奏できていたんじゃないかと思う。後は良い映像になっていることを信じるだけだ。こうして良い雰囲気で『Kin』の撮影も無事に終了することができた。





撤収作業を終える頃には日も暮れかけており、春は何処かにいってしまったのではないかというくらい気温が下がっていた。これは帰ったらすぐ風呂に浸かり暖かいご飯を食べて寝なければ風邪をひいてしまうな、と危機感を持った。まるで冬に戻ったみたいだ。みんな体調を崩さないように気を付けてくれと思いながら各々車に乗り込んだ。やり切った心地よい疲労感を感じながら、相変わらず他愛もない話で盛り上がり帰路についた。

こうしてスタディ#3の春夏秋冬を終えた。今思い返してみればアーティスト写真を撮影する目的で始めたこのスタディが、ここまで広がっていくなんて当初は想像もしていなかった。はじめは三人だったメンバーも五人に増え、各々の思うことに触れる機会もその分増えていった。スタディを続けなければできなかったであろう新しい体験もさせてもらった。特にこの#3はスタジオ外での演奏で大変なことも多かったが、その分季節の様子を感じられたし、それが映像にもしっかり反映されていると思う。出たとこ勝負のスキー場での撮影なんかも今となっては良い思い出だ。
四季を知ろうとして、わからなくなって、それでもまた未知を求め続けるように僕達は3年の四季を巡った。学び合い、知恵を出しあう楽しさを知り、緩やかに、でも確実にそれぞれが変化していった。具体的にこの体験が今後の暮らしにどういう風に活かされていくか、また、楽曲制作にどう反映されていくのかはわからないけれど、今は何より、たくさんの人と出会い、関わり、協力してもらった事に感謝している。